いびき・睡眠時無呼吸症候群

睡眠歯学(Sleep Medicine)

睡眠学という新しい学際領域が今世紀になって日本学術会議により提言されました。睡眠学は睡眠医歯薬学、睡眠科学、睡眠社会学の3本柱からなる学問です。睡眠医学で扱う睡眠障害は60種類異常から成りますが、歯科領域では”いびき症”、”閉塞性睡眠時無呼吸症候群”や”ブラキシズム(歯ぎしり、くいしばり、タッピング等睡眠中の有害な顎運動)”がその対象となります。

いびき症

いびきは、睡眠中にのどや舌の筋肉が弛緩することで、気道が狭くなることにより、空気が通る時に粘膜が震えることによって生じます。いびきが出ているときは気道が狭くなっているため、酸素が肺に十分に届いていない”低呼吸”状態になっていると言えます。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

睡眠時無呼吸症候群は、無呼吸(10秒以上の呼吸停止)が1時間に5回以上起こることによって生じる、様々な症状のことです。一般に大きないびきと無呼吸を繰り返します。

中枢性のもの(CSAS)と閉塞性(OSAS)のものに大きく分けられます。ほとんどは閉塞性で、その重症度により治療法が選ばれます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は上気道(鼻腔・咽腔・喉頭)が狭くなることによって生じるために、酸素が十分に脳に届かないために、脳が休まらず浅い眠りとなり多くの問題を引き起こします。

原因に関しては多くのものが考えられますが、欧米では肥満によって生じる場合がありますが、日本人の場合にはその特有の奥行のない顎骨の形態のために肥満体形でない場合でも生じることが特徴です。

睡眠医学は神経内科や精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、歯科などの複数の領域にまたがる医学です。歯科では顎を前に引き出す装置を製作することにより気道を確保する治療を行います。 また、睡眠時無呼吸症候群の方は睡眠中に口で呼吸をする場合もみられ、口腔乾燥症や歯周病を併発している場合もあります。

いびきや無呼吸の影響

浅い眠りは、日中の活動に影響します。居眠りや集中力の低下、疲労感などが生活の質QOLの低下を招きます。また、高血圧症、脳梗塞、心筋梗塞などいのちに関わる病気のリスクが高まります。

「睡眠時無呼吸症候群の関係が示唆される事故」として山陽新幹線運転士居眠り事件(2003年)、ツアーバス防音壁衝突事故(2012年)など社会的な事故の原因ともなっています。

治療法

睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法は以下のようなものがあります。
  • ① 食事療法(ダイエット):気道(のど)についた肉をダイエットによって減らすことで息の通りをよくします。
  • ② n₋CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法) :鼻から空気を気道へ送り込みます。
  • ③ 外科手術 :鼻やのどの通りがよくなるように、狭くなっている部位(口蓋垂や肥大化した扁桃)の摘出をします。
  • ④ 耳鼻科疾患の治療 :鼻炎や上咽頭炎、鼻中隔湾曲症などを治療して鼻呼吸ができるようにします。
  • ⑤ スリープスプリント :マウスピース型の装置です。
  • ⑥ 寝具や睡眠体位 :枕の高さや寝返りができる環境などを整えます。

スリープスプリント

[スリープスプリントに向いていない症例]
・歯科治療中の人
・歯の数が少ない人
・顎関節に問題がある人
・顎骨の成長期の人(おおよそ18歳以下)

治療の流れ

①睡眠の専門医の検査(睡眠ポリグラフ検査PSG)結果により判定を行います。検査の結果、スリープスプリントの適応症であるとの診断がでた場合は、スリープスプリント製作の依頼状(紹介状)をもって来院してください。(保険診療での装置製作には紹介状が必要です)

*AHI(無呼吸低呼吸指数):1時間あたりの無呼吸や低呼吸の回数

軽症 AHI 5~15、中等症 AHI 15~30、重症 AHI 30以上

②Step1:診査・診断:顎や歯の状態を診断します。むし歯や歯周病がある場合にはその治療を先に行います。       

↓Step2:印象採得:型取りをして上下のマウスピースの製作を行います。       

↓ Step3:装着:口腔内装置を実際に使用してもらいます。       

↓ Step4:調整:使い勝手を確認し、装着後の調整を行います。